飲酒運転を行った場合、道路交通法の酒気帯び運転もしくは酒酔い運転が成立します。酒気帯び運転は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金で(道路交通法117条の2の2第1号)、酒酔い運転は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金です(道路交通法117条の2第1号)。両罪の違いは「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」となっているかにより判断されます。そのような状態か否かは客観的に判断されます。直線の上を歩かせてふらつくかどうか等も考慮されているようです。
さらに、飲酒により正常な運転が困難な状態での運転により人を死傷させた場合は、制御困難運転、未熟運転、妨害運転、信号無視運転等を行った場合等とともに、新たに成立した自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が適用されます(平成25年11月27日成立)。この場合の法定刑は、人を負傷させた場合は15年以下の懲役に、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役になります(同法2条)。これは従来の刑法における危険運転致死傷罪と同じ内容です。
また、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で人を死傷させた場合も、今回の法律制定で追加されました(同法3条1項)。「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とは、道路交通法の酒気帯び運転罪になる程度のアルコールが体内にある状態をいうとされています。従来、酒気帯び運転で人の死傷結果が生じた場合は、不注意による運転として自動車運転過失致死傷罪が適用され、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金でした。しかし、このような事故について今回厳罰化され、人を負傷させた場合は12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役となり、刑期が長期化され、罰金刑がなくなりました。
道路交通法違反の起訴・不起訴の傾向
検察統計によると、平成25年において道路交通法等違反で公判請求されたのは6,834件、略式命令請求されたのは211,104件、不起訴処分となったのは123,258件となっています。起訴と不起訴処分の合計のうち略式命令請求の割合は61.9%、不起訴処分の割合は36.1%となっています。このことから、大半が略式命令請求され罰金となる傾向があるといえます。
道路交通法違反の裁判の傾向
司法統計によると、平成25年に第一審において道路交通法違反で有罪となった件数は5,468件、無罪となった件数は4件、公訴棄却等が30件で、有罪率は99.4%となっています。
内訳をみると、実刑判決は1,245件(22.6%)、執行猶予判決は4,223件(76.8%)、無罪は4件(0.1%)となっています。このことから、公判請求がなされても大半が執行猶予判決となると考えられます。
危険運転致死傷の逮捕の傾向
検察統計によると、平成25年における危険運転致死傷既済事件の総数275件のうち、警察及び検察で逮捕されたのは150件(54.5%)、逮捕されない在宅のものは125件(45.5%)となっています。このことから半数は逮捕されているといえます。
危険運転致死傷の警察の対応
警察で逮捕された149件のうち、検察へ身柄送致されたのは144件(96.6%)、警察で釈放されたのは5件(3.4%)となっています。これらのことから、逮捕されるとほぼ身柄付きで送検される傾向にあります。
危険運転致死傷の逮捕後の措置
逮捕・送検された145件のうち勾留が許可されたのは140件(96.6%)、勾留が却下されたのは1件(0.7%)、検察で釈放されたのは2件(1.4%)となっています。逮捕・送検されるとほぼ勾留されるのが現状と考えられます。
危険運転致死傷の起訴・不起訴の傾向
検察統計によると、平成25年において危険運転致死傷で公判請求されたのは204件、不起訴処分となったのは20件となっています。起訴と不起訴処分の合計のうち不起訴処分の割合は8.9%となっています。このことから、多くの場合に起訴される傾向があるといえます。
危険運転致傷で有罪となった場合の傾向
また、法務省の資料によると、平成23年に危険運転致傷で実刑判決を受けた人数は37人、執行猶予となった人数は131人となり、執行猶予の割合は78.0%となります。
危険運転致死で有罪となった場合の傾向
一方、危険運転致死で実刑判決を受けた人数は17人、執行猶予となった人数は0人となり、全員が実刑判決を受けています。
これらのことから、被害者が傷害を負ったにとどまった場合には執行猶予が付される可能性が80%近くと高い割合であるのに対して、被害者が死亡した場合は実刑判決を回避するのは難しいという傾向があると考えられます。
危険運転致傷の場合、有罪となっても執行猶予となる可能性が高い傾向があります。一方、危険運転致死の場合、実刑となる可能性が極めて高いといえます。その場合、より軽い刑になるような裁判での活動が重要となります。
量刑を争う場合や無罪主張する場合、弁護士の能力が特に重要です。事件の本質・ポイントを見抜き、効果的な立証を行うためには、経験に裏打ちされた高度な技術・判断能力が必要ですし、被告人にとって有利な証拠を収集する技術・能力も必要です。弁護士は、被告人と十分な打合わせを行い、最良の弁護方針を決定し、それを実行する必要がありますが、ここでも刑事事件についての経験がものをいいます。
弁護士の能力・手腕が不足していたがため、執行猶予が付かずに実刑になったり、無罪が取れずに実刑判決が言い渡され、弁護士が替わって、控訴審でやっと執行猶予が付いたり、無罪になったなどという話しはよく聞くことで、弁護士選びも極めて重要です。