暴行罪は、人の身体に対する不法な有形力の行使があることにより成立し、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となります(刑法208条)。
傷害罪は、人の身体の生理的機能を害することで成立します。暴行等による有形的な方法のみならず、いやがらせ行為等による精神的障害によっても傷害罪は成立することとなり、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(刑法204条)。
暴行・傷害罪が成立するにあたり問題となるのは、そもそも暴行・傷害があったのか、特に暴行の場合は、傷害と異なり目に見える症状が発生していない場合が多いので、被害者の誇張ではないか等が問題となります。また、暴行・傷害の故意があったのか、暴行・傷害行為を行ったのは本当に被疑者・被告人なのか、さらに被害者に生じた傷害は本当に被疑者・被告人の行為から生じたものなのか等が問題となります。肩を叩くといった行為や悪ふざけ程度の行為なら暴行とはいえません。また、暴行・傷害は瞬時に偶発的になされることが多く、被害者側の錯誤や思い違いや誇張が入り込みやすいといえます。
暴行罪の逮捕・勾留の傾向
検察統計によると、平成25年における暴行既済事件の総数14,578件のうち、警察及び検察で逮捕されたのは5,799件(39.8%)、逮捕されない在宅のものは8,779件(60.2%)となっています。このことから逮捕される可能性は比較的低い傾向にあるといえます。
暴行罪の警察の対応
警察で逮捕された5,795件のうち、検察へ身柄送致されたのは4,727件(81.6%)、警察で釈放されたのは1,068件(18.4%)となっています。このことから逮捕されるとほぼ身柄付きで送検される可能性が高い傾向があります。
暴行罪の逮捕後の措置
逮捕・送検された4,731件のうち勾留が許可されたのは3,739件(79.0%)、勾留が却下されたのは179件(3.8%)、検察で釈放されたのは634件(13.4%)となっています。このことから一定数釈放される傾向にあるといえます。
暴行罪の起訴・不起訴の傾向
検察統計によると、平成25年の暴行罪の公判請求は712件、略式命令請求は3,653件、不起訴処分は8,641件でした。起訴・不起訴の合計のうち不起訴処分の割合は66.4%となります。このことから、高い割合で不起訴処分となっているといえます。
起訴された4,365件のうち3,653件(83.7%)が略式命令請求であることから、ほとんどが罰金となるといえます。
傷害罪の逮捕の傾向
傷害既済事件の総数26,905件のうち、警察及び検察で逮捕されたのは14,373件(53.4%)、逮捕されない在宅のものは12,532件(46.6%)となっています。このことから半数程度が逮捕される傾向にあるといえます。
傷害罪の警察の対応
警察で逮捕された14,363件のうち、検察へ身柄送致されたのは13,392件(93.2%)、警察で釈放されたのは971件(6.8%)となっています。これらのことから、逮捕されるとほぼ身柄付きで送検される傾向にあります。
傷害罪の逮捕後の措置
逮捕・送検された13,402件のうち勾留が許可されたのは12,181件(90.9%)、勾留が却下されたのは170件(1.3%)、検察で釈放されたのは523件(3.9%)となっています。逮捕・送検されるとほぼ勾留されるのが現状と考えられます。
傷害罪の起訴・不起訴の傾向
また、傷害の公判請求の件数は、3,554件、略式命令請求の件数は5,471件、不起訴処分の件数は12,251件でした。起訴・不起訴の合計における不起訴処分の割合は57.6%となり、傷害罪について半数以上が不起訴となっています。
傷害罪の裁判の傾向
裁判所の司法統計によると、平成25年に第一審において傷害罪で有罪となった件数は3,920件、無罪となった件数は13件、公訴棄却等が11件で、有罪率は99.4%となっています。
内訳をみると、実刑判決は1,739件(44.1%)、執行猶予判決は2,181件(55.3%)、無罪は13件(0.3%)となっています。このことから、半数以上について執行猶予が付されていることから、起訴されてしまった場合は執行猶予の獲得が重要となるといえます。
暴行罪・傷害罪ともに、不起訴処分となる傾向が比較的高いといえます。不起訴処分の獲得に注力すべきです。そのためには被害者との示談が重要となります。被害者との間で示談が成立すると、被害者の処罰感情が薄く、処罰の必要性がないとみることができ、不起訴処分となる可能性が高まるといえます。示談交渉に精通した弁護士を通して示談交渉をすべきです。さらに、酔っていて覚えていない、傷害・暴行があったこと自体を争いたい等の場合もあると思います。様々な対応が求められることとなりますので、早めに専門家に相談すべきです。