ある地方で起きた強制わいせつ事件です。被害者は小学校低学年の女の子で、被告人は被害者と同じ団地に住む高齢の男性でした。被害者が被告人に無理矢理胸などを触られたと母親に訴え、母親が警察に通報したことから発覚した事件で、被告人は捜査公判を通じて身に覚えがないとして否認していました。
検察官は、女の子が嘘をつく理由はないと判断して起訴し、被害者の証人尋問を行いましたが、証言が揺らいだり、証言内容が他の証拠と合わなかったりしたため、裁判所は被害者の証言は信用できないとして無罪を言い渡しました。
ここまではよくある無罪のパターンといえると思いますが、控訴するかどうかを検討するに当たり、検察官が補充捜査をしたところ、ある重要な事実が判明したため、控訴することはできませんでした。
被害者は、ある養護施設に入っていたことがあったため、被害者の施設内での行状等につき確認する補充捜査を行ったところ、同施設の職員から、「被害者には虚言癖があり、入所中何度か、男性職員にわいせつな行為をされたとの明らかに事実に反する言動があり、対応に苦慮した」旨の供述とそれを記した記録が得られたのでした。
いろいろな要因から児童が事実に反する供述をする危険性があることは広く知られていますが、本件においては、被害者とされる小学校低学年の児童が、捜査機関に対し、故意に嘘をついた可能性を否定することができないというショッキングな事実が明らかになったのでした。成人の被害者の供述の信用性評価は、かなり難しい作業だと思っていましたが、児童の供述についても慎重な検討が必要であることを改めて教えられた事件でした。なお、児童等の取調べについてはその適正を確保するための取組みが検察においても数年前から始められています。