示談とは、裁判外において、当事者間の話し合いにより法律上の紛争を解決する合意をいいます。示談は契約の一種であり、契約内容を書面にしたものを示談書と言っています。
示談と類似する用語として、和解があります。和解は、裁判上または裁判外において、当事者が互いに譲歩し、法律上の紛争を解決する合意をいいます。示談は、当事者の一方が全面的に譲歩する場合もあるのに対し、和解は当事者双方が互いに譲歩すること(互譲)が要件となっています。
示談が成立した場合、当事者間で示談書(和解契約書)を作成し、被害者の方には嘆願書(被害者が検察庁または裁判所に対し、被疑者・被告人の寛大な処分を望む旨の書面)の記入、被害届の取り下げや告訴の取消しに応じて頂くこととなります。
薬物犯罪(覚せい剤取締法違反、麻薬取締法違反)など被害者の存在しない犯罪については、示談の必要はありません。また、公務執行妨害罪、贈収賄罪など国家的な法益を侵害する犯罪についても、国家が示談に応じる余地はありませんので、示談の必要はありません。
示談が必要となるのは被害者の存在する犯罪、例えば、暴行罪、傷害罪などの粗暴犯、強姦罪、強制わいせつ罪、痴漢などの性犯罪、窃盗、詐欺、横領などの財産罪です。
示談をすることにより、加害者は被害者に対し謝罪するとともに慰謝料を支払い、被害者は慰謝料を受領して加害者を許します。こうして、加害者・被害者双方が、事件について相互に債権債務関係を持たないこととなります。加害者にとって、被害者に受け入れてもらえたことが、事件について反省し被害者に感謝の念を忘れず更生する一歩となります。刑事事件での処罰を避けるまたは軽減することができるとともに、民事訴訟で損害賠償請求されることを避けることができます。また、被害者にとっても、事件が未解決の状態が長く続くことは精神的に大きな負担となるため、示談成立が、事件を円満に解決して経済的・心理的に精算し、前向きな一歩を踏み出す一助となります。
捜査段階(起訴される前)において、示談の成立は、検察官が起訴・不起訴を決定する際に重要な判断材料となります。検察官は、被害の重大性、被害感情、示談の成否、事件の社会的影響、犯行態様、犯行の計画性、犯行後の行動、前科前歴の有無、家族や勤務先の社長など本人を監督し更生に協力できる人物の有無など諸般の事情を総合考慮した上で、起訴・不起訴を決定します。
そして、各判断材料の内、示談の成立は非常に重要な要素として考慮され、軽微な事件については、示談が成立すれば通常不起訴となります。また、強姦罪、強制わいせつ罪、器物損壊罪などの親告罪(告訴がなければ起訴することのできない犯罪)については、示談成立の際に被害者から告訴の取消しについての承諾を得ることにより不起訴となります。
示談の成立により、不起訴の見込みが高くなり、さらに捜査する必要性がない場合には、直ちに釈放されることとなります。
また、起訴後に保釈を請求する場合にも示談の成立は考慮要素のひとつとなりますので、示談交渉は起訴の前後を問わず身柄釈放のための重要な活動といえます(保釈についての説明は保釈(起訴後の身柄の解放)をご覧下さい)。
起訴された場合であっても、示談の成立は、裁判官が判決を下す際に重要な判断材料となります。裁判官は、被害の重大性、被害感情、示談の成否、事件の社会的影響、犯行態様、犯行の計画性、犯行後の行動、前科前歴の有無、社会内で更生できる可能性など諸般の事情を総合考慮した上で、証拠調べの結果を踏まえ、判決を言い渡します。
そして、各判断材料の内、示談の成立は被告人にとって非常に有利な事情として考慮され、量刑を軽くする方向へ作用します。
示談金の額は事案の内容により様々であり、相場というものはありません。 過去の事例から、同じ罪名で成立した示談金額を参考にすることは可能であっても、実際には被害者固有の事情、加害者の資力など事件の具体的な内容により大きく左右されるため、その事件について同額が当てはまるとは限りません。
被害者も、示談についての情報をある程度収集した上で交渉に臨むことが多いので、最終的にどのような内容で示談を成立させるかは、弁護士の交渉能力が最も問われる場面の一つです。
示談交渉にあたり、加害者が被害者に連絡を取りたくても、被害者が個人情報を知られるのを恐れ、拒否する場合があります。もっとも、このような場合であっても、弁護士に対してであれば連絡先(住所、氏名、電話番号など)を教えてもよいという方が少なくありません。したがって、本人の力だけでは入口の段階で難航してしまう示談交渉も、弁護人を付けることにより進めることが可能となります。
また、性犯罪の被害者については女性が多いため、加害者が女性弁護士に依頼することにより示談交渉をスムーズに進めることが可能となる場合もあります。
示談を申し入れるタイミングについては注意すべき点があります。被疑者が不起訴処分を得るためには早い方が良いといえますが、事件から間もない段階では被害者の被害感情が強く、金銭の話を持ち掛けることで却って被害者の気持ちを逆なでしてしまうこともあります。したがって、交渉を進める際には経験豊富な弁護士が、被害者側の事情にも配慮しつつ依頼者に有利な結果を得られるよう慎重に行動する必要があります。