被害者の嘘 (1)で述べた強制わいせつ事件の捜査は、女児の母親からの110番通報とその後の告訴により開始されています。母親は、女児から被害の話しを聞いたときも警察に通報したときもかなり酒に酔っていたということです。そしてこの事件が無罪となった後、補充捜査のため女児宅に赴いた警察官に対し、その母子は、「無罪とはなんだ、今頃のこのこ何をしにきた」などと怒鳴りつけたということでした。この事件の無罪の理由は被害女児の証言の信用性が否定されたことでしたが、そもそも捜査の端緒にも問題があったと思われる事件でした。
本サイトの刑事事件の流れと刑事弁護人の役割にも書いたとおり、捜査の端緒には、告訴、告発、被害届、投書、密告、内部告発、風評、新聞・雑誌の記事、他事件の捜査、変死体の発見、現行犯人の発見、自首など様々なものがあります。
変死体の発見や他事件の捜査中に新たな犯罪事実を把握した場合等は別にして、告訴、告発等にはそれを行う側の思惑がありますから慎重な捜査・検討が要求されます。自首でさえ誰かをかばっている可能性が否定できません。
ここで例として挙げたわいせつ事件などの告訴事件は、要注意事件の典型で、
等について慎重に検討し、捜査処理を行わなければなりません。捜査・処理に当たっては被告訴人の弁解・供述に十分耳を傾ける必要があることはいうまでもありません。
死体が発見されて捜査が開始される1課事件に作意が働くことはほとんど考えられませんが、告訴事件等についてはいろいろな事情が存在し得ますし、最も多く無罪が出ているのもこの類型の事件であると思われますので、捜査機関には、被害者の供述は正しく、それに反する被告訴人の供述は嘘であるなどという予断を抱かず、任意捜査の段階でできる限りの捜査、検討を行ってもらいたいものです。
弁護人としては、上記の諸点等について検討し、必要な調査を行うなどして不当な身柄拘束や起訴を防止する活動を行う必要があると思われますし、告訴人等の代理人の立場でも上記諸点の検討は不可欠であると思われます。