ニュースや新聞では毎日のように「事件の容疑者が警察に逮捕された」という報道が流れています。
多くの方にとってそれらの報道は自分とは関係のないニュースであることがほとんどだと思いますが、時に自分自身や家族が警察に逮捕されてしまうという事態も起こり得ます。
ここでは、ご自身が何かのトラブルで逮捕されてしまった場合に備えて、あるいは家族が逮捕されてしまった場合のために、警察に逮捕されてしまった場合の法律知識について説明します。
まず、そもそも「逮捕」とはどのようなものでしょうか。
一般的には、容疑者が手錠をかけられてパトカーに乗せられていく場面をイメージするかもしれませんが、「逮捕」は手錠をかける場面に限られません。
専門的には、「逮捕」とは強制力を行使して被疑者の身体を拘束し引き続き短時間の拘束を継続することをいい、手錠を使用しなくても、また任意同行の名の下に警察署で取り調べを継続するような場合も事情によっては逮捕となります。
実際の裁判例においても、警察官が任意同行後、午前8時から翌日午前0時頃まで事実上の監視を付けた状態で若干の休憩時間を除き取り調べを続け、本人に帰宅の意思や外部との連絡の機会を与えなかったという事案において、夕食の時間である午後7時以降の取り調べは実質上逮捕にあたるとされたものがあります。
また逮捕に際しては逮捕状という令状が提示されるのが原則ですが、現行犯逮捕や緊急逮捕の場合に令状の事前提示が要求されていませんので(刑事訴訟法第213条、同第210条第1項)、事前に逮捕状を提示されずに逮捕される場合もあります。
逮捕された場合、通常は警察署の留置場に身柄拘束されることになります。
警察は逮捕から48時間以内に検察官に事件を送致(法律用語では「検察官送致」、マスコミなどでは「送検」と呼ばれます)するか、身柄を釈放するかしなければなりません(刑事訴訟法第203条第1項、第4項)ので、身柄を釈放するか送検するかを判断するために取り調べを行います。
取り調べを受けた場合、警察官によって供述調書が作成されることがありますが、供述調書は、起訴されるか不起訴になるかの重要な資料となり、また起訴された後の刑事裁判においても重要な証拠となるものですから、自分の言った内容がニュアンスも含めて正確に記載されているかどうか慎重に確認する必要があります。供述調書作成についての注意点は「供述調書の重要性と黙秘権」をご覧下さい。
取り調べを経て、逮捕から48時間以内に警察から検察官に事件が送致(送検)されると、まずは検察官からの取り調べを受け、「弁解録取書」という供述調書が作成されます。「弁解録取書」は検察官が最初に逮捕された人の言い分を聞き、その言い分を記載するものですが、その後に作成する供述調書との間に矛盾等がある場合に裁判で厳しく追及されることもありますので、やはり自分の言い分が正確に記載されているかどうか十分に確認する必要があります。
検察官は、「検察官送致(送検)を受けた時から24時間以内かつ逮捕の時から72時間以内」に裁判官に対して勾留請求を行うか、釈放するか、公訴提起(起訴)するかしなければなりません(刑事訴訟法第205条第1項、第2項、第3項、第4項)が、多くの場合で勾留請求がなされています。
家族が逮捕された場合には心配な気持ちから一刻も早く面会に行きたいと思うかもしれませんが、逮捕段階では面会(接見)が許されるのは弁護人のみであり、家族でさえも面会(接見)ができません。
本人の安否を確認し、あるいは家族からのメッセージを早く伝えるためには弁護人を選任する必要があるといえます。
勾留とは、逮捕に引き続く身柄拘束のことをいいます。逮捕以降も身柄拘束の必要があると考えた場合には検察官が勾留の請求をし、裁判官が被疑者に事情を質問した上で勾留を認めるかどうか判断します。
裁判官により勾留が認められると、検察官が勾留請求をした日から10日間身柄拘束されます(刑事訴訟法第208条第1項)。また、最初の10日間では起訴不起訴を決定するための捜査時間が不足している場合には、さらに最大10日間(通常事件の場合)勾留が延長される場合があります(刑事訴訟法第208条第2項)。
逮捕に引き続き、勾留の間にも警察官や検察官による取調べが行われ、この間に集められた他の証拠も踏まえて検察官が事件を起訴するかどうか処分を決定します。
勾留の間に行われる取り調べに基づいて作成される供述調書についても、自分の供述内容が正確に記載されているかどうか慎重に確認しなければならないのは、前述した逮捕における取り調べの場合と同様です。
勾留や勾留延長について不服がある場合には、準抗告という申立てにより早期に身柄を解放することができる場合があります(刑事訴訟法第429条第1項第2号)。
勾留段階では原則として家族による面会(接見)も可能になりますが、覚せい剤事件や共犯者の存在が疑われる共犯事件においては、証拠の隠滅や口裏合わせを防止するために接見禁止措置がとられる場合があります。接見禁止措置がとられてしまった場合には、やはり逮捕段階と同様に弁護人以外の人は本人と面会(接見)することができなくなってしまいます。
勾留される場所についてですが、警察署の留置施設に勾留される場合と、警察署の留置施設から拘置所に移送される場合とがあります。
拘置所とは、法務省が管理する刑事施設であり、東京の場合には足立区の小菅に所在しています。
警察署の留置施設に勾留され続けるか拘置所に移送されるかはケースバイケースであり、それぞれの施設の収容人数との兼ね合い等で決まることもあります。
拘置所での面会や差入れについて、東京拘置所を例にとってご説明します。
まず面会についてですが、面会の回数、時間は1日1回、30分くらいに制限される場合があります。一回あたりの面会人数は3人以下となります。面会受付日は平日に限られ、土日祝日年末年始は面会できず、受付時間も午前8時半から午後4時まで(お昼休憩は除く。)と制限があります。
また面会時には職員が立ち会いをしたり、面会状況を録画・録音されることがあります。
なお、面会ではなく家族が本人に手紙を送る回数については制限がありませんが(これに対して本人が家族に手紙を発信する回数については拘置所により制限があります。)、拘置所において手紙の内容が検査され、暗号が用いられていたり、証拠隠滅が疑われるような内容が記載されている場合などにはその記載が抹消されたり、手紙のやりとりそのものが認められなくなる場合があります。
次に差し入れについてですが、現金、食料、衣服、書籍やノート、筆記用具などの日用品の差入れが認められていますが、差入れができる品目や数量が制限され、差入物品取扱業者が指定されている場合があります。面会の際に本人に直接差入れをすることはできず、拘置所の窓口で申込用紙により申し込むことになります。郵送による差入れも可能ですが、差入れの制限との関係で差入れできない物品や数量があります。
逮捕段階や、勾留段階で接見禁止措置がとられている場合のように、身柄を拘束された被疑者が家族と面会できない状態にある場合、弁護人だけが家族や職場その他一般社会と本人との間の唯一の橋渡し役になります。警察に逮捕され、今後自分がどうなるのかも正確に知らずにいる本人にとっては、家族から依頼を受けた弁護人が面会(接見)に来るだけでも自分が家族とつながっていることを感じられるのです。
身柄を拘束された被疑者が家族と面会できるという場合においても弁護人の重要性は変わりません。
まず、ご家族による面会と異なり、弁護人による面会は回数や時間の制限がなく、夜間や休日における面会も認められるので、やはり本人と一般社会との間の重要な橋渡し役になります。
また、例えば犯罪事実に争いのない事件であれば、弁護人が本人に代わって被害者との示談交渉を行うなどした上でできるだけ軽い処分にするよう検察官に働きかけたり(示談に関する詳細は当サイトの基礎知識「示談」をご覧下さい。)、身柄拘束についての不服申立手続をして早期に解放されるようにするなど法律の専門家である弁護人の関与が不可欠となります。さらに、犯罪事実に争いがあるような場合には、警察官や検察官に対して不利な供述をしないように黙秘権の保障や供述調書の重要性を説明し、絶えず面会をして精神的に援助したり、違法不当な取り調べに対して警察官や検察官に抗議したりするなど、絶対にあってはならないえん罪を防ぐために弁護人は欠かせない役割を担うのです。
ご家族が警察に逮捕された場合、勾留された場合には、なるべくお早めにご相談下さい。 当事務所の弁護士がお力になります。